噛み合わせなど間接的要因と歯周病

歯周病の原因には、歯周病菌以外にも様々な間接的要因が存在します。その一つが「噛み合わせ」です。正常な噛み合わせが悪くなると、口内の症状だけでなく、耳鳴り、めまい、頭痛、肩こりなどさまざまな症状が現れ、顎関節症や歯周病の進行を促進することがあります。噛み合わせの不良により、歯磨きの際に磨き残しが生じ、プラークがたまりやすくなります。また、均一でない噛む力により、特定の歯に大きな負担がかかり、骨がダメージを受けやすくなります。これが歯周病の進行を早める要因とされています。

噛み合わせは、上下の歯が合わさって形成され、咀嚼筋が咀嚼運動を制御します。この咀嚼筋がスムーズに動作し、口の周りの組織がバランスよく協調することで、咀嚼、嚥下、発語などが円滑に行われます。しかし、噛み合わせが悪いと歯周病の進行を促進し、逆に歯周病が進行すると噛み合わせにも影響が出るため、互いに悪影響を及ぼす関係にあります。歯周病が進行している場合、噛み合わせの悪さが運動機能にも影響を与えることがあります。そのため、歯周病治療の一環として、噛み合わせを正常な状態に戻すことが重要です。 

正常咬合と不正咬合

 一般には「歯並び」と同じような意味でとらえられることも多い「噛み合わせ」ですが、歯並びと噛み合わせはまったく異なる概念です。歯並びは、1本1本の歯が歯槽骨の上に並んでいる状態、つまり「歯列」のことをいい、噛み合わせは、上あごの歯列と下あごの歯列が合わさる「咬合」のことを指します。たとえば、歯並び(歯列)があまりよくなくても、歯周病や咀嚼障害などがなく、噛み合わせ(咬合)は悪くない人もいますし、反対に、歯列矯正や補綴(ほてつ)治療(被せものなどの歯科治療)できれいな歯並びをしていても、筋肉や顎関節とうまく調和せず、噛み合わせや嚥下、発語などの機能に問題を抱えている人もいます。上下の歯がバランスよく接し、しっかりと噛み合うのが、よい噛み合わせの基本です。

「正しい噛み合わせ」の条件には、さまざまなものがありますが、

基本は次の3点です。

・上下の歯は「1歯対2歯」の関係で、交互に隙間なく噛み合う

・上下の前歯の中心のラインが一致している

・上の歯が、下の前歯の外に2ミリほど被さること

ただし、実際にはこの条件を満たす噛み合わせをもつ人は多くはいません。そのため、このような理想的な噛み合わせは「仮想正常咬合」と呼ばれることもあります。なお、何らかの要因によって歯や歯周組織の発育・形態・機能に異常があり、上下の歯がきちんと噛み合っていない状態を「不正咬合」といいます。

不正咬合のいろいろ

①叢生
一般に〝八重歯〟とか〝乱ぐい歯〟といわれている状態。歯の幅は標準的な大きさなのにあごが小さい場合や、逆にあごに対して歯の幅が大きい場合などに起こります。
②上顎前突
いわゆる〝出っ歯〟で、奥歯を合わせたときに上の前歯が前方に突き出している状態。上の前歯が傾斜して突出している場合と、下あごに比べて上あごが大きい場合があります。
③下顎前突
いわゆる〝うけ口〟といわれる状態で、「反対咬合」ともいいます。下の前歯が上の前歯より前に出ているために、うまく噛めないだけでなく、発音にも影響があります。
④開咬
奥歯では噛んでいても、上下の前歯は接触せずに上下の歯の間に隙間ができた状態。前歯で食べものを噛み切れないだけでなく、舌が出てサ行やタ行の正しい発音ができません。
⑤正中離開
上あごの真ん中の歯に隙間がある〝すきっ歯〟のこと。原因はさまざまですが、正しい発音ができなかったり、磨き残しにもつながり、歯周病や虫歯のリスクが高まります。
⑥交叉咬合
上下の歯を噛み合わせたときに、どこかで上下の歯列が交叉している状態で、「クロスバイト」や「すれ違い咬合」とも呼ばれます。
⑦過蓋咬合
前歯の噛み合わせが深く、下の前歯が上の前歯に覆われている状態。下あご全体が後方へ押し込められて運動が大きく制限されるため、顎関節症になりやすいといわれます。

噛み合わせがからだに及ぼすさまざまな影響

噛み合わせとともに歯周病の大きな要因となるのが、「からだの歪(ゆが)み」です。からだの歪みというと骨盤が有名ですが、腰だけでなくスマートフォンやPCを長時間見るためにうつむく姿勢が続き、頸椎がまっすぐになってしまう「ストレートネック」や、左右の脚の長さが異なる「脚長差」など、さまざまな歪みがあります。私たちのからだには、200個以上の骨があり、それぞれが軟骨や筋肉、腱などでつながっているため、ひとつの骨がずれたり、左右がアンバランスになることでからだ全体が歪み、さまざまな影響を及ぼします。たとえば、噛み合わせがずれると、上あごと下あごがしっかり合わなくなり、噛みにくいところでは自然と噛まなくなって咀嚼筋への力のかかり方が不均等になり、噛みグセが生じます。このクセが続き、左右の偏りが大きいと、次第に頭の軸が傾いて頚椎がずれます。からだの中でもっとも上にあり、重い頭部のバランスが不安定になると、からだは無意識にバランスをとって、なんとかそれを正そうとします。

噛み合わせが及ぼすからだの不具合

  • 下顎のずれ
  • 頚椎のずれ
  • 肩関節のずれ
  • 胸椎のずれ
  • 腰椎のずれ
  • 股関節のずれ

不正咬合が発生(噛み合わせ)↠顎関節がずれる↠頚椎がずれる↠胸椎がずれる↠肩関節がずれる↠腰椎がずれる↠骨盤・仙骨関節がずれる↠股関節がずれる↠自律神経のバランスが乱れる 。すると今度はあごから肩につながる広頚筋に負担がかかり、緊張が生じます。

さらに、あごの位置がずれることで首の後ろの筋肉も緊張して首の骨を圧迫し……と、次々とバランスを崩し、背骨、坐骨、ひざへと連鎖反応を起こして歪みや痛みといったさまざまな問題につながるのです。そして、筋肉に過度な力がかかり続けると、やがては骨格まで歪み始め、最終的には神経や内臓にまでダメージを与えてしまいます。

このように、噛み合わせの悪さが原因となっているからだのさまざまなトラブルは、近年頭痛や肩こり、めまい、立ちくらみ、耳鳴り、眼の痛み、腰痛、手足のしびれ、膝関節痛、イライラなど、実に多様です。

最近では、自律神経のバランスが乱れることが原因で心身にさまざまな症状が現れる「自律神経失調症」も、不正咬合のひとつとされています。あごのズレや頸椎の位置の異常が椎骨動脈の血行不良のもととなり、自律神経をつかさどる視床下部がダメージを受けて自律神経のバランスがくずれてしまうことが、原因のひとつと考えられているためです。

自律神経失調症は、神経質な性格やまじめで几帳面な人に現れることが多く、ストレスを感じると歯を食いしばるクセのある人が少なくないことも、噛み合わせと自律神経失調症には深い関係があることを示しているといわれます。

「食いしばり」が歯周病を悪化させる

噛み合わせとともに歯周病の大きな間接的要因となっているのが「食いしばり」です。人は普通、ものを噛むとき以外は歯と歯を浮かせていますが、食いしばりがある人は常に力が入っているため、噛み合わせの力に対抗するように骨が発達し、噛み合わせがずれてしまいます。そして歯周病の原因となり、悪化を招くのです。「食いしばり」というと、重い荷物を持ち上げるときのように、全身に力を入れて思いきり奥歯を噛みしめる様子を思い浮かべますが、実は、軽く歯を接触させているだけで歯には相当な力がかかっています。歯は、人体の中でももっとも強い力が加わる部位で、歯を食いしばると奥歯には平均で60㎏、人によっては100㎏もの力が加わることもあるといわれます。ただしそれは食事の間など、1日の中でもわずかな間のことだけです。会話や食事のときに起こる歯の上下の接触は、1日平均20分程度といわれ、何もしていないときは上下の歯は接触していません。

無意識に食いしばる「クレンチング症候群」

ところが、ストレスなどが原因で、無意識に歯を強く食いしばってしまうことがクセになっている人がいます。このクセを「クレンチング症候群」といいますが、無意識に食いしばりを続けていると、歯やあごへ大きな負担がかかり、歯の摩耗や亀裂(きれつ)、破(は)折(せつ)、歯の動揺をはじめ、さまざまなトラブルを起こすようになります。ひどくなると咬筋が発達してエラのようになり、顔貌が変化することもあります。当然、歯周病の発生や悪化を招くこともわかっているため、痛みや違和感がある場合は早めの治療が必要です。ただし、初期の段階や軽度の場合は自分で予防・改善することが可能なので、自分のクセを自覚して「上下の歯が接触しないことを常に意識する」「肩・首まわりの筋肉をストレッチなどでほぐす」「口の中をマッサージする」などの方法を続けてみましょう。

睡眠中の食いしばりの治療には、上下の歯が接触しないように、マウスピースをつけることで歯を保護します。

クレンチング症候群セルフチェック

クレンチング症候群は、自覚症状のないことがほとんどですが、次のようなことが思いあたる場合は要注意です。

  • 上下の歯の噛み合わせ面がすり減って平らになっていないか
  • 歯と歯肉の境目に削り取られたような傷がないか
  • 舌の側面に歯形がついていないか
  • 歯に接する頬の内側に白い線がないか
  • 耳の穴から1センチほど手前にあるあごの関節を押すと痛みがないか
  • あごのエラの部分の筋肉に痛みを感じないか

歯列接触癖(THC)とは

 また、クレンチング症候群ほどではないものの、何かの作業をしているときに長時間上下の歯を接触させている人がいます。この弱い歯の接触を含めたこのクセは、「歯列接触癖(TCH)」と呼ばれます。THC(Tooth Contact Habit)は東京医科歯科大学の研究者らが命名、発表したもので、同大学の調査では、顎関節症の患者の77%、一般の会社員の21%、中学生の11・4%(男性)、24・5%(女性)にTCHがみられたといいます。「歯の接触程度ならたいした問題はないだろう」と思いがちですが、先に述べたように、軽く接触するだけで歯には相当な負担がかかっています。しかも、強い食いしばりは長くは続きませんが、歯の接触は、気づかないうちにずっと続いてしまうこともあります。

THCが引き起こす症状

歯と歯が接触し、筋肉が緊張する。血管が収縮して血流量が低下。接触が長時間にわたれば筋肉は疲労し、肩こりやあごの痛み、歯や舌の痛み、歯周病の悪化などを引き起こす。

THCセルフチェック

□姿勢を正してまっすぐ前を向き、目を閉じ、唇を軽く閉じたまま、上下の歯が接触しないように軽く離す。

この状態で、口やあごのまわりに違和感があったり、5分間そのままで維持できそうにないようであれば、TCHの可能性が高いと考えられます。

TCHへの対策

□普段から歯を合わさないように意識することが肝心。無意識にTCHをしてしまう場所に「歯を合わせない」と書いた張り紙をする。しかし、この治療はセルフケアが主体となるため、根気が必要です。TCHはストレスが大きな原因として考えられますので、ストレス発散ができる環境をつくることも大切です。食いしばりの治療にボトックス注射をおこなう「ボトックス治療」と、軽度高気圧濃縮酸素環境の酸素ルームの併用が挙げられます。ボトックス注射で咬筋の緊張をやわらげ、かつ酸素ルームでの血流促進効果や筋肉疲労回復効果により、食いしばりだけでなく、歯周病の改善に有効性があるとされています。

ボツリヌス治療で食いしばりや顎関節症を改善

歯や歯ぐきに痛みがなくても、寝ているときの歯ぎしりや、歯のすり減りによる噛み合わせの不具合は、全身にさまざまな悪影響を与えます。歯ぎしりや歯のすり減りの原因は、噛む力が強すぎることが原因といわれます。また、なかなか治らない出血や歯ぐきの腫れ、入れ歯の不調などは、咬筋が原因のことが多いようです。そこで、歯を食いしばる力を弱める方法として、ボツリヌス注射を推奨しています。